人生、迷ってもいい :ドキュメンタリー映画「牧師といのちの崖」

この映画「牧師といのちの崖」は、和歌山県白浜町の三段壁で、自殺防止活動に取り組む牧師・藤藪庸一氏の取り組みを中心としたドキュメンタリー。

藤藪氏は和歌山県白浜町の三段壁でいのちの電話を運営するとともに、保護した人々と共同生活をし、またこれらの人々が自立できるように弁当配達も行う食堂を運営しています。藤藪氏は、この取り組みを通して、自殺志願者の人々に、安心でき、自分らしくいられ、役割を感じることのできる居場所を提供しています。保護された人々は、この場所で、人間関係を回復し、そして自分ができることを探しつつ、自立を目指しています。これらの映像から、人間にとっての居場所の大切さ、そして居場所を提供する活動の大切さを教えられます。

ただ、この映画の真骨頂は、エンディングにあるかもしれません。ネタバレになるので詳しくは書きませんが、私たちの期待を裏切り、また明確な答えを出さないエンディングは、理想とは異なる現実をどのように受け止めるかを私たちに問いかけてきます。人間を扱う映画は、得てして理想的な生き方を描き、そして私たちにそのように生きることを求めてきます。けれども、そのような求めは、理想を突きつけることで、そのように生きることのできない現実の私たちを否定することにつながることもあります。この映画のエンディングは、「生きるにおいても、また人を援助するにおいても、明確な答えがなくてもいいんだよ、人生、迷ってもいいんだよ」と私たちに語りかけ、弱いありのままの私たちに居場所を提供してくれているようにも思えます。

名古屋では「名古屋シネマテーク」で4月19日までの予定で上映。また東京、大阪でも上映中です。詳しくは公式サイトで。

(向日 恒喜)

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