競争社会だからこその思いやり:講演会「評価に囚われない働き方」

気がつくと今年も残すところあとわずかとなってきました。向日です。

12月5日に、社会心理学を専門とされている新谷優先生(法政大学グローバル教養学部教授)をお招きし、本学の企業研究所主催の公開講演会が開催されました。新谷先生は『自尊心からの解放』という著書を執筆されていますが、今回はその本の内容をベースに「評価に囚われない働き方:REACT(応じること)からACT(働きかけること)へ」とのタイトルで講演いただきました。

以下に講演の概要を紹介いたします。

評価に囚われない働き方

自己の価値を何に置くか

なぜ人間は他者の評価を気にするのでしょうか。「自己価値の随伴性」に関する理論では、外的な基準(学業能力、競争で他者に勝つこと、外見的魅力、他者からの受容、関係性調和)に自己の価値を置いている人は、他者から認められること、つまり成功や失敗によって自己価値が変動してしまうと述べられています。一方、内的な基準(家族・友人からのサポート、倫理的であること、神の愛)に自己価値を置いている人は、他者からの評価の影響を受けにくいことから自己価値が安定しやすくなります。ただ、内的な基準に自己価値を置いていても、自己価値を意識している限り、やはり他者からの評価の影響を受けてしまいます。

「思いやり目標」と「自己イメージ目標」

では、どのようにすれば自己価値を意識しなくても済むようになるのでしょうか。そのポイントは「思いやり目標」と「自己イメージ目標」にあります。「思いやり目標」とは、他者の幸福を高めようとする目標です。これに対し、自己イメージ目標とは、他者に自己の良い印象を与え、 その印象を維持・促進しようとする目標です。この自己イメージ目標を持つ人は、相手に良い印象を与えたいと思うがあまりに、結果、他者に悪い印象を与えてしまうとのパラドックスに陥ってしまいます。

「エコシステム」と「エゴシステム」

上記のような自己イメージ目標に立ち、自分のニーズを満たそうとすることで、周囲に悪い印象を与え、逆に評価が得られなくなってしまうサイクルを、「エゴシステム」と呼びます。一方、思いやり目標に立ち、相手のためになることをしたいと考え、相手のニーズを満たすことで、相手も思いやり目標を持ち、それが自分の評価として戻ってくるとのサイクルが生まれます。このようなサイクルを「エコシステム」と呼びます。
そして思いやり目標を持つ人は、自分に対して優しくなったり、時間に余裕を感じるようになったりすることが明らかになっています。思いやり目標を持つことで、評価から解放され、エコシステムを通して、他者に、そして自分にポジティブな影響がもたらされていくのです。

競争社会でエコシステムは実現できるのか?

以上、簡単に講演の概要を紹介しましたが、現実の企業や学校は競争の上に成り立っており、管理する側も管理される側も評価は避けて通れないものとなっています。また私たちも、思いやり目標のつもりで取り組んでいたことであっても、知らず知らずのうちに自分が評価してもらうことを期待した自己イメージ目標に陥ってしまいます。このような現実の中、思いやり目標を持ってエコシステムを築くことは難しいと感じてしまいます。

ただ、新谷先生のお話を聞き、思いやり目標は、自己イメージ目標がもたらすネガティブな影響を包み込む緩衝材のような役割をしているように感じました。私たちは不完全で、純粋な思いやり目標を持つことは難しいかもしれません。それでも、私たちが思いやり目標を持つことを意識することで、自己イメージ目標がもたらすネガティブな影響が和らげられていくのかもしれません。

競争社会であるから評価に囚われないこと、そして思いやり目標を持つことを諦めるのではなく、競争社会であるからこそ思いやり目標を持つことを心掛ける。そうすることで周囲の人々にとって、また私たち自身にとって生きやすい社会となっていくのではないでしょうか。

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