居場所のマネジメントとは

居場所とは

心理学において居場所に注目した研究として「心理的居場所感」の研究がみられます。先行研究(則定, 2016)では心理的居場所感を「心のよりどころとなる関係性、および、安心感があり、ありのままの自分を受容される場があるとの感情」(則定, 2016, p. 39)と定義しています。そして、自分らしくいられる感覚である「本来感」、人の役に立っている感覚である「役割感」、人に受け入れられている感覚である「被受容感」、安心する感覚である「安心感」の4つの因子を明らかにしています。この因子に基づくならば、居場所は「役割がある、自分らしくいられる、受け入れられている、安心できる場所」と言うことができます。心理的居場所感の研究の多くは、青少年を対象としており、職場を対象とした研究はようやく取り組み始められたところです(中村・岡田, 2016)。

居場所のマネジメントとは

居場所のマネジメントでは、「役割がある、自分らしくいられる、受け入れられている、安心できる場所」を企業や社会に提供し、適切に運営し、個人のモチベーションや幸福感を引き出すことで企業や社会に貢献することを目指します。

1. 研究・学習に関連した概念

私達のゼミ・研究室では特に以下の視点から研究、学習を進めていきます。

(1) 自尊感情

自尊感情は「人が自分の自己概念と関連づける個人的価値及び能力の感覚」(遠藤・井上・蘭, 1992, p.1)と定義されます。職場においては「組織内自尊感情」の概念が用いられることが多いですが、この組織内自尊感情が従業員の内発的モチベーションやポジティブな行動を引き出すとの研究がみられます(e.g., Pierce et al., 1989)。このような自尊感情の概念は「役割がある、自分らしくいられる、受け入れられている」との感覚と関連しています。

一方で、自尊感情が高いことが必ずしも良いわけではなく、自尊感情の特性や自尊感情の源泉によって、自尊感情の効果が異なるとの指摘があります(e.g., Crocker, J., and Wolfe, 2001)。単なる自尊感情の高低だけではなく、自尊感情の多面性や源泉をも考慮に入れながら、自分が価値があると感じられる環境と人間の行動との関係について考えていきます。

(2) 内発的モチベーション

モチベーションは報酬や評価による「外発的モチベーション」と、興味関心に基づく「内発的モチベーション」に分けることができますが、内発的モチベーションが個人や組織のパフォーマンスに有効であるとの議論がみられます(e.g., Pink, 2009)。また、Deci and Ryan(1995)は、自尊感情を自分の価値を信じる健全で安定した「真の自尊感情」と、他者からの評価などにより変化する不安定な「随伴的自尊感情」とに分類し、真の自尊感情の下で内発的モチベーションが引き出されると述べています。この真の自尊感情は「自分らしくいられる」との感覚と関連していると言えますが、他者の評価によらずに自分に価値があると感じられる環境と内発的モチベーションとの関係について考えていきます。

(3) 本来感

上記の真の自尊感情に類似した概念として、「本来感」の概念が挙げられます。本来感とは自分らしくいられている全体的感覚とされ(伊藤・川崎・小玉, 2011)、青少年の分野での研究がみられますが、職場においても本来感がウェルビーイングや生産性を高めるとの報告がみられます(Van den Bosh and Taris, 2014)。このような本来感もまた「自分らしくいられる」との感覚と関係が深いと言えます。職場において自分らしくいられることが、組織のパフォーマンスに与える影響について考えていきます。

(4) 心理的安全

組織やチームが環境の変化に適応するためには、新たな知識を共有していくことが必要になりますが、そのような知識の共有を促進する概念の1つに「心理的安全」が挙げられます。心理的安全とは「関連のある考えや感情について人々が気兼ねなく発言できる職場の雰囲気」(Edmonson, 2012, 邦訳, p.153)と定義され、「受け入れられている、安心できる場所」と関係が深いと言えます。このような心理的な安全を感じられる環境が、知識の共有などの組織のパフォーマンスに与える影響について考えていきます。

2. 研究・学習の対象

(1) 企業

従業員、顧客、取引先を大切にしている企業を研究・学習の対象として考えています。従業員を大切にしている企業は、従業員が「役割がある、自分らしくいられる、受け入れられている、安心できる」と感じられる環境を提供することを通して、従業員のモチベーションを引き出しています。また、顧客がホッとできるようなサービスや製品を提供している企業は、顧客が「安心できる」時間や空間を提供することを通して収益を上げています。そして、支援が必要な取引先から商品を取り寄せている企業は、取引先が「役割がある」と感じることができるように支援をしています。このような企業の取り組みを学び、また分析していくことで、居場所を企業内や企業外に提供することを考えていきます。

(2) 社会

災害で困難に直面している人々を、経営、情報の知識を活用することで、居場所を提供し、サポートすることについて考えていきます。たとえば、東日本大震災の際、風評被害で商品やサービスが売れないとの問題に多くの企業が直面しました。これらの企業の方々は、マーケットにおいて自分たちの役割がない、居場所がないと感じておられました。このような問題を解決することは、風評被害に直面している企業にマーケットの中での居場所を作り出す活動であると言えます。

また、育児のために休業中の人や時短勤務をしている人々、障がい者の人々などの問題についても考えたいと思っています。これらの人々は、社会や職場において自分の役割がないと感じさせられています。これらの人々が持っている能力を引き出し、雇用を促進していくことは、これらの人々の居場所を設ける活動でもあります。

このような、企業の枠を超えた社会の中での居場所についても考えていきます。

参考文献

Crocker, J., and Wolfe, C. T. (2001) “Contingencies of Self-Worth,” Psychological Review, Vol.108, No.3, pp.593-623.

Deci, E. L. and Ryan, R. M. (1995) “Human Autonomy: The Basis of True Self-Esteem,” in Kernis, M. H. (eds.), Efficacy, Agency, and Self-esteem, Plenum Press, pp.31-49.

Edmondson, A. C. (2012) How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy, John and Wiley & Sons (野津智子訳 (2014)『チームが機能するとはどういうことか』英治出版).

遠藤辰雄・井上祥治・蘭千尋壽編 (1992)『セルフ・エスティームの心理学』ナカニシヤ出版.

中村准子・岡田昌毅 (2016)「企業で働く人の職業生活における心理的居場所感に関する研究」『産業・組織心理学研究』Vol.30, No.1, pp.45-58.

則定百合子 (2016)『青年期における心理的居場所感の構造と機能に関する研究』風間書房.

Pierce, J. L., Gardner, D. G., Cummings, L. L. and Dunham, R. B. (1989) “Organization-Based Self-Esteem: Construct Definition, Measurement, and Validation,” Academy of Management Journal, Vol.32, No.5, pp.622-648.

Pink, D. H. (2009) Drive: The Surprising Truth About What Motivates Us, Riverhead Books(大前研一訳 (2010)『モチベーション3.0』講談社).

Van den Bosch, R. and Taris, T. W. (2014) “The Authentic Worker’s Well-Being and Performance: The Relationship Between Authenticity at Work, Well-Being, and Work Outcomes” The Journal of Psychology Interdisciplinary and Applied,  Vol.148, Mo.6, pp.659-681

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