変わるものと変わらないものを見分ける:「職場における居場所について考える」研究会

北風が冷たく感じる季節になってきました。向日恒喜です。

現在、経営情報学会において「人間尊重のマネジメントの心理・行動的側面」という名称の研究部会を運営しています。この研究部会で、1か月半ほど前になりますが、10月5日に居場所の研究をされている、則定百合子先生(和歌山大学教育学部准教授)をお迎えして、「職場の居場所について考える」とのテーマで研究会を開催しました。

則定先生は著書、『青年期における心理的居場所感の構造と機能に関する研究』において、心理的居場所感の4つの因子、自分らしくいられるという感覚である「本来感」、人の役に立っているという感覚である「役割感」、人に受け入れられているという感覚である「被受容感」、安心できるという感覚である「安心感」を明らかにしておられます。研究会では、これらの枠組を踏まえ、臨床の現場の視点から話をしていただきました。今回の記事では、この研究会で印象に残ったことを2つ、紹介させていただきます。

職場の居場所がなくなる時代

則定先生は報告の中で、「『居場所がない』との感覚が居場所を意識する機会となる」と話してくださいました。またディスカッションにおいて、「日本企業では終身雇用が崩れ、また仕事の形態が変化し、職場の居場所がなくなる時代になっている」との意見が交わされました。

今、従業員は、リストラの憂き目にあう不安を抱えつつ、また時代の変化に伴い今の仕事がなくなる不安を抱えつつ仕事をしなければなりません。そして、こうした不安の中、従業員は居場所のなさを感じるようになってきています。このような現代において、自分の役割を感じられ安心できる居場所感を提供していくことが、今まで以上に企業にとって大きな課題になっているのかもしれません。

変わるものと変わらないものを見分ける

則定先生が報告の中で、様々な症状や心理学的特性は「遺伝」と「環境」の相互作用であるという考え方を紹介してくださいました。

この考え方は、職場の問題を解決する上で環境に働きかけることが必要であることを示していますが、それとともに遺伝、つまり個人が持って生まれた個性を認め、受け入れることをも示しています。

一般に経営学では、企業の成長とそれを促す個人の成長が強調され、ビジネス系の書物でも自己の成長を促すものが中心となっています。そのような価値観の下、企業、そして社会において、個人の個性を無視して、すべての人をすべての部分で画一的に成長させようとの力が大きく働いています。このような力の下で成長する人々がいる一方で、必要以上に成長しようとして疲弊してしまう人々がいるのも現実です。

管理者は従業員に対して画一的に成長のモデルだけを求めるのではなく、従業員の変わる部分と変わらない部分を見極めて関わっていくことも必要なのかもしれません。そうすることで、従業員が自分らしくいられる居場所を職場で見つけることができるようになるのではないでしょうか。

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