ちょっと弱い人のためのマネジメント、「ちょいよわマネジメント」始めます

こんにちは。向日恒喜です。今回は、今まで温めていた取り組み、「ちょっと弱い人のためのマネジメント」について書かせていただきます。

ビジネスの現場では、競争に打ち勝つために「強い人」が評価され、強い人の論理でマネジメントが行われています。一方、メンタルヘルスへの対応や合理的配慮が求められるようになり、就業が難しい「弱い人」への配慮にも徐々に目が向けられつつあります。

このような中、就業はできるものの人間関係や心身などに不安を抱えている「ちょっと弱い人」は、強い人と同じカテゴリーに組み入れられ、強い人の論理に従ったマネジメントが行われる傾向にあります。しかしこのような人は、必要以上に強さを求められることで働きづらさを感じていることが多いのではないでしょうか。

このような「ちょっと弱い人」、略して「ちょいよわ」な人のためのマネジメント、「ちょいよわマネジメント」について考え、また取り組んでいきたいと思っています。私自身、大学教員として働いてきましたが、自分の力のなさ、能力のなさを感じている「ちょいよわ」の当事者です。そして、働きやすい労働環境や、弱さを受け入れてくださった周囲の方々のお陰で、ここまでなんとか仕事をすることができたと感じています。そのような「ちょいよわ」の一当事者として、少しでも同じような方々の力になることができればと感じています。

以下、もう少し詳しく私が考えている「ちょいよわマネジメント」について説明させていただきます。

「ちょいよわマネジメント」

「強い人」のためのマネジメント

ビジネスの現場では、競争に打ち勝つことが重視されることから、成長や自己実現を目指して、ポジティブ思考を持ち、困難に立ち向かい、高いエンゲージメントを持って働くことことができる「強い人」が求められる傾向があります。そしてそのような人材がロールモデルとして掲げられ、そのような人材になるための研修が実施され、またそのような人材であることを前提にマネジメントがなされてきました。

このようなマネジメントも、ある面では決して間違いではありません。このようなマネジメントを通して、プレッシャーがかかる状況を耐え忍び、競争を潜り抜けることで成長する人も多くいます。ただ、このようなマネジメントを実施する人は、自分自身がそのような状況を乗り越えることができた「強い人」なのです。そして自分自身がそのような状況で成長できたことから、そのような状況を頑張って乗り越えることを他の人にも求めてしまいます。このようなマネジメントは、同じように強い人にとっては、その人の潜在的な能力を引き出してくれる有益なものと言えます。

「弱い人」のためのマネジメント

ただ上記のようなマネジメントは、すべての人に有益であるとは限りません。病気や障害で体や心にハンディを背負い、そのままでは就業が難しい「弱い人」がいます。このような人のハンディは個人によって異なることから、一人ひとりの特性に合わせたマネジメントが必要になります。近年、企業もメンタルヘルスへの対応や合理的配慮が求められるようになり、このような弱い人へのマネジメントにも徐々にではありますが、目が向けられるようになっています。

これらの人に対しては、医師、臨床心理士、公認心理師、介護福祉士など、専門の知識やスキルを持ったスタッフによるケアがなされています。言い換えれば、知識が体系的に整理されているものの、専門家によるサポートが必要な難しい領域と言えます。

「ちょっと弱い人」のためのマネジメント

一方、職場には、就業はできるけれども、人間関係や心身の健康、自身の能力などに不安を抱えており、一歩踏み出すことに躊躇している「ちょっと弱い人」がいます。このような人は表面的には普通に働いていることから強い人のカテゴリーに含まれてしまいます。そのため、頑張ることで問題を乗り越え成長できるとの強い人向けのマネジメントが行われてしまいがちです。しかしちょっと弱い人は、このような強さを求められることに対して働きづらさや職場への居づらさを感じているのではないでしょうか。このような人が意外と多いにもかかわらず、それらの人に合ったマネジメントがなされてないように思われます。

今まで私は、従業員の内発的動機、自尊感情、居場所感などの研究に取り組んできました。これら概念に基づくマネジメントは、従業員の心を大切にし、働きやすい環境を整えることで、モチベーションを引き出していくとの考えが土台になっています。このようなマネジメントは、まさにちょっと弱い人のモチベーションや能力を引き出す取り組みと言えます。学術的な研究においても、たとえば職場で役割の葛藤を少なくすることが、特に自尊感情が低い人に効果的であることが示されています(Pierce et al., 1993)。

「強い人」と「弱い人」という言葉

ただ「強い人」と「弱い人」という言葉を使うと誤解を生むかもしれませんが、私は以下のようにこれらの言葉を捉えています。

強い人:その社会の文脈に適応できている人
弱い人:その社会の文脈に適応するのが難しい人
ちょっと弱い人:その社会の文脈で貢献したいと考え、表面上は適応できているが、心身や能力の問題から少し無理をしている人

つまり強い人もある文脈では弱い人であり、また弱い人もある文脈では強い人である可能性があります。

ここでは主に、競争に打ち勝つことやそのための成長が求められる一般的なビジネスの文脈を考えていることから、そのような環境に適応できる人を強い人、適応が難しい人を弱い人、そして、少し無理をして適応している人をちょっと弱い人と表現しています。ですので、このようなビジネスの文脈では弱い人であっても、競争よりも思いやりが求められる職場や、地域のコミュニティ、子育てや介護の文脈に適応できているならば、そこにおいては強い人と言えます。

そしてビジネスの現場で以外と見過ごされがちな、「ちょっと弱い人」も、その弱さを受け入れ、その人に合ったマネジメントをすることで、その人の強さが引き出される可能性があります。弱いという言葉はネガティブなイメージもありますが、それはあくまで1つの視点からの特性にすぎず、逆にその弱さが強さになる可能性もあります。ですので、ここではそのような逆説的な意味も含めて「弱い人」という言葉を使っています。そして、ちょっと弱いことも否定すべき特性ではなく、さまざまな可能性を秘めた特性であることから、私も自分自身のその特性を受け入れつつ、親しみと愛着を込めて「ちょいよわ」という言葉を使いたいと思っています。

さいごに

社会の文脈も、また弱さも多様であることから、ちょっと弱い人のためのマネジメントは単純なものではありません。ただ、このようなマネジメントの必要性を問うことで、ビジネスの現場で主流の強い人のためのマネジメントが必ずしも万能なものではないことに気づき、またそのようなマネジメントの下でちょっと弱さを感じている人がいることに気づくきっかけになることを願っています。

私自身、経営学部の大学教員として、また「ちょいよわ」の一当事者として、あまり気負わず、じっくりと「ちょいよわマネジメント」に取り組んでいきたいと思っています。

(このバナーはゼミ生が作成してくれました)

参考文献

Pierce, J. L., Gardner, D. G., Dunham, R. B. and Cummings, L. L. (1993) “Moderation by Organization-Based Self-Esteem of Role Condition-Employee Response Relationships,” Academy of Management Journal, Vol.36, No.2, pp.271-288.

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