不安が生み出すもの

こんにちは、向日恒喜です。コロナウイルスの感染拡大が続く中、不安を感じておられる方も多いのではないでしょうか。

昨日は、私たちの世代に小さいころから笑いを届けて続けてくださった、志村けんさんが亡くなられるとのニュースも飛び込んできました。このニュースを通して、コロナウイルスで「一人の人が居なくなる」ことの大きさをリアリティを持って感じておられる方々、そして、改めて不安を感じておられる方々も多いかもしれません。

不安というのは、人間が危険を回避する上で必要な感情なので、それを否定する必要はありません。ただ、その不安が今の社会においてさまざまな副作用を生みだしてしまうことがあります。今日はそのことについて少し考えてみたいと思います。

不安が怒りを生み出す:存在脅威管理理論

不安が与える影響に関する興味深い理論として、社会心理学の「存在脅威管理理論」があります(脇本, 2005, 2012)。この理論では核になる3つの概念があります。

存在論的恐怖:自分はいつ死んでしまうかわからないとの恐怖
文化的世界観:ある集団に共有された価値観や信念
自尊感情:文化的世界観の中で有能であるという感覚

そして、存在論的恐怖からの影響を文化的世界観と自尊感情が和らげるとともに、存在論的恐怖が文化的世界観を守る行動や自尊感情を高める行動を強化すると述べています。

そのため、人間は自己の存在が脅威にさらされると、自尊感情を守るために自分を肯定的に評価し、また文化的世界観、つまり自分が帰属する集団(コミュニティ、組織、思想、国など)を守るために、その集団の正当性を主張するようになり、ときには外の集団を批判、攻撃するようになってしまいます。

その結果「不安がきっかけで怒りが生まれ、その怒りがつぎの不安を生み出すことで、さらなる怒りを生み出す」との負の連鎖が生じてしまう危険性があります。社会にみられる偏見や差別、そして対立などが不安から生まれている可能性があるのです。

不安を受け入れ寄り添う

では、不安をもたらす負の連鎖を防ぐためには、不安を打ち消せばよいのでしょうか。私自身、不安を感じることが多々あり、不安を打ち消そうと思っても簡単ではないことを痛感しています。

死と生をとり扱う「死生学」という分野があります。ある研究において、死に直面し、苦しんでいる人に対して必要なことは、「目の前の人をありのまま受け止め、そして何もできない限界を了解したうえで、なおそこに在る」(藤井, 2015, p.194)との「寄り添い」だと述べられています。そしてこのような寄り添いのもとで、苦しんでいる人が自身の存在価値などを見出していくとされています。

今、社会に必要なのは、人々が感じている不安を否定することではなく、その不安を受け入れ、また寄り添っていく、そのような場所なのかもしれません。そのような場所において、人々は不安のもとでも自尊感情を高めていくことができ、また批判や攻撃を通して自尊感情を維持することから解放されるのかもしれません。

コロナウイルスがきっかけでさまざまな対立が起こらないことを、そして何よりも一日も早く終息することを願わされます。

参考文献

脇本竜太郎 (2005)「存在脅威管理理論の足跡と展望:文化内差・文化間差を組み込んだ包括的な理論化に向けて」実験社会心理学研究, Vol.44, No.2, pp.165-179.

脇本竜太郎 (2012)『存在脅威管理理論への誘い―人は死の運命にいかに立ち向かうのか』サイエンス社.

藤井美和 (2015)『死生学とQOL』関西学院大学出版会.

(向日恒喜)

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